学習の躓きを考えるー思考の仕方から見る

前回、前々回と学習の躓きについて考えています。

今回も、前回に引き続き『学力喪失ー認知科学による回復への道筋ー 今井むつみ』を読みながら、

そこから私が学んだことを書いてみようと思います。

今回は思考の仕方についてです。

思考力とは

学習、問いを解くには、その際の思考力というのが重要になると思います。

その思考について考えることで、そこにある躓きを見ていくというアプローチです。

ではそもそも思考力とはいったい何であるか?

まずは本書による、思考力とは何かを引用してみると

「思考力とは、知識も使って問題を解決する力」p146

とあります。

さらに認知科学の知見をもとに、もう少し踏み込んでみると

以下引用

「想像的に、質の高い思考をする」とは、

「質の高いアブダクション推論をしながら、

常に推論をリアルタイムで制御すると同時に、

結果をモニターし、誤りを修正するサイクルを伴う思考をする」

ということp147

とあります。

一体どういうことなのか。

上記の説明を読んでもいったい何のことやらという感じです。

一つ一つ見ていこうと思います。

アブダクション推論とは

アブダクション推論とは、本書引用すると

演繹推論のように、結論が一義的に決まる、必ず正しい答えが得られる推論ではなく、

異なる分野の知識を組み合わせたり、比喩や類推を用いて新たな知識を創造する

推論のことである。p147

このように書くとますますわからなくなりそうですが、私たちが乳幼児のときから行っている推論であると書かれてあります。人が言葉を覚える時は、全てを大人から教わるわけではなく、擬音語や周りの状況を読み取りながら、推測しながら、言葉を覚えていくという過程があるそうです。そのような推論のことをアブダクション推論というようです。ここで注意したいのは、推論であるので、間違った知識として得てしまうこともあるのです。

リアルタイムで制御する認知処理とは

「思考」とは

「思考」には大きく分けて二つの機能が働いていて、

一つが認知機能、もう一つが推論機能だそうです。

認知機能とは、情報を脳の一時的な貯蔵庫において、操作するものであり、

代表的なものに、作業記憶(ワーキングメモリー)というものがあります。

「脳の作業台」「脳のメモ帳」とも呼ばれるようです。

実行機能という呼ばれる認知機能があります。

実行機能とは、注意の抑制、必要に応じた切り替えを実行する能力であり、

類推の推論を行うときに重要な役割を果たすそうです。

ではそれらが、学習の躓きとどのように関係しているのか?

それが、本書中で出た「たつじんテスト」というテストの子どもたち解答から子供達の思考の仕方、

躓きの原因を明らかにしてきたのです。

そこでわかったことは、

子供が躓く原因として、

「思考力そのもの」より「思考の制御の問題」が大きいことp188

ということです。

例えば、数字をランダムに言っていき、それを覚えてもらう、

もしくは覚えたものを逆から言ってもらうという逆順の課題を出した場合、

逆順の方が、認知処理の負荷がグッと高くなります。

認知処理の負荷は、問題が複雑になる程かかってくるのですが、

その認知負荷を軽減するための工夫ができるか、つまり、推論課題に対して負荷を制御できるのか、

ということが大きな差になっているのだと言います。

リアルタイムで制御する認知処理とは、作業記憶で問題に関することを一時的に貯蔵しながら、

自分が持っている知識と組み合わせ、認知処理に負荷があるものに関して、

それをどのように軽減できるようにするのかそれを考える、ということになるように思います。

結果をモニターし、誤りを修正するサイクルを伴う思考とは

先ほど、認知処理に負荷があるときにどのように制御するかという思考でしたが、

それとは別に思考の制御の要素があります。それは「メタ認知」だと言います。

「作業記憶」や「実行機能」は、脳の情報処理の時に無意識に働いている機能ですが、

「メタ認知」は意識的なものであり、自分から少し離れた視点で、結果をモニターし、

評価するというものです。

以前に私自身が身につけたい力として、メタ認知がありましたが、

これは大人でも子供でも関係なく誰もが持っておくほうがいい力なのかもしれません。

そして、最近よく聞く「批判的思考(クリティカルシンキング)」もメタ認知と

つながっているのだそうです。

もう少しメタ認知に詳しくみてみます。

システム1とシステム2の思考

心理学者のダニエル・カーネマンが名付けた、システム1、システム2という思考があります。

簡単にいうと

システム1は直感、

システム2は熟考、メタ認知を働かせ物事を吟味しながら論理的に考える思考

ということになります。

システム1は人間の思考のデフォルトにあります。スピードを持って応えるという特徴があります。

スピードはあるけれども、時にミスも起こるということです。

ですが、人間はシステム2で、視点を変えて、論理的に物事を見て、

その事象を批判的にみることができる。

だからこそ、システム1で起こるミスを制御することができるのです。

このように、人間はシステム1とシステム2を行き来できるのが特徴であると言えるのです。

ですがそれは大人になればできるというものでもないのだと言います。

その力を育むことが、必要であり、それが、思考の躓きを解消していくものになるのです。

このようにシステム1、システム2を行き来しながら、制御をしていくということが

必要な力ということになると思います。

逆を言えば、そこが弱いと、どうしても思考するおいて、難しい問題になると、

手も足も出ない状況になるということになるのです。

まとめ

少し長くなり、本書の説明のような形になってしまいました。

思考の躓きは、リアルタイムで制御すること、そしてメタ認知という、

どちらも思考を制御する力を身につけることが必要であるということだそうです。

この考え方は、学習の躓きを考える上で、考えもしなかったというか、こうして知らなければ、

得ることのない視点だったと思います。

大人の私でさえも、以前メタ思考という本で、メタ認知の力について考え、

そして自分自身もその力を得たいと思っていた部分がありました。

こうして、大人である私でも、まだその力が育っていないのに、

子供にその力をうまく育むように自然に導くことができるのかというのは大きな疑問ではあります。

その辺りの実践例が本書に書かれてありますので、次回はその辺りを見ながら、

私ができることを考えてみようと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました