学習の躓きはなぜ起こるのか、ということを
『学力喪失ー認知科学による回復への道筋ー 今井むつみ』
を読んで、認知科学の側面から考えています。
そして学習の躓きの理由として、
スキーマ、認知能力(作業記憶、実行機能など)、メタ認知、思考バイアスなどに
問題がある
ということを学びました。
しかし、それをどのようにしていけばいいのかということはわかっていません。
さらに言えば、これらの問題にそれぞれアプローチしても問題は解決できないと筆者は言っています。
ではどうすれば、問題を解決できるのでしょうか?
今回のキーワードは「記号接地」です。
記号接地とは
学習の躓きしている子供たちは、
例えば分数では、分数という概念について「記号接地」できていないと
と言います。つまり、分数の意味、本質的な意味がわかっていないということになるのだと思います。
では「記号接地」とは何でしょうか?
「記号接地」とは人工知能と認知科学における長年の未解決の問題であり、
1990年にスティーブン・ハルナッドとい認知科学者が、当時のAIを批判して、
記号接地問題(symbol Grounding Problem)という言葉でAIを特徴づけたものだそうです。
以下引用
記号の意味は人間が定義を与える。
しかし、コンピュータはひとつひとつの記号(言葉)の意味を
他の記号で記述しなおしているだけで、
コンピュータが意味をほんとうに理解しているわけではない。p196
記号として理解しているでけで、本質的なことは理解していないということですね。
これを子供の分数に当てはまると、分数の計算パターンなどは、何となく繰り返し行っていて、
記号として理解しているが、では実質的なことを理解しているかというとそうではない、
ということなのだと思います。
数の記号の量的直感をもたない、ということになります。
分数であれば、その数字が数直線上でどのあたりかなどのイメージも持っていないということです。
「記号接地」ができていなければ、本質的なことを理解していないので、
「生きた知識」として使用することもできないのです。
しかし、記号接地とはどのように行われているのでしょうか?
そしてそれは簡単に行えるのでしょうか?
実は私たちが、子供の頃に言葉を習得する際に、「記号接地」というものは行っているのだと言います。
子供がどのように記号接地行っているか?
子供が言葉を習得していく過程として、大人から、単語を教えてもらう。
それはオトマトぺという音から意味を連想することができる形からはいり、
そこから、子供たちは自ら、そのモノには固有のことばがあることを知る。
そしていろいろな経験をしながら、このことばがどんな時に使われるかなどを推測しながら
知見を広げていく。
ことばをただの一つのものとしてだけでなく、応用できるように、抽象化していく。
そして本当の意味として理解していくようになる。
そのように点から面として広げていく「一般化の推論」を行いながら
ことばを習得していくのだと書かれれていました。
つまり、大人がすべてのことばや意味を教えているのではなく子供自身が自ら、
体験をしながら記号との接地をおこなって、ことばを得ていくのだと言います。
さらにその過程では、自らの推論があるので、誤解、間違いも生じてきます。
ですがそれも自らが体験を重ねながら修正していくのだと言います。
つまり精度の高いアブダクションができるようになっていくというのです。
さらに、興味深いのは「ブートストラッピング」というものです。
何かを学習するときに、子どもが自分で手がかりを見つけ、洞察を得て、
学習を加速させていくプロセスを、発達心理学ではブートストラッピングというp219
何かを学ぶ際に、誰かから学ぶということをイメージしやすいですが(少なくとも私はパッとそう感じたけれど)、そうではなく、自らが学びそこから学習を加速させていくのです。
確かに、我が子を見ていても、言葉を私が何から何まで教えたわけではないですね。
自然と自分たちで会得していったのだと改めて思います。
つまり、子どもが言葉を覚えていく過程とは、
単語の意味を推測するのではなく、語彙という仕組みを探索して、
語彙についての暗黙知である「スキーマ」を学んで、それを身体レベルまで落とし込む
という作業なのだと言います。
その作業の時に行われていたこととして、比較、そして複数例が大きな助けになっていたようです。
ことば単体ではなく、比較されるものがあり、複数の例があることで、
よりその言葉の輪郭がはっきりしてくるのだと思います。
これを踏まえて私たちができそうなことは何か
では言葉を習得する過程を見ていきましたが、
ここから私たちが子どもたちの学習にもできることは何か?
子供たちは、自ら洞察をし、体験を経て、学習を加速せています(ブートストラッピング)
以下引用
知識がなくても知覚・感覚的にアクセスできる概念を見つけ、そこに接地する。
単に記号(ことば)と対象を結びつけるだけではない。そこから抽象化を行う。p231
そしてその際、誤りも生じる。
このように学習していくとするのであれば、私たちができることは
ブートストラッピングを行えるような手助け
自走する力を育てること。
システム2を育てて誤りを修正する
ということになるのだと思います。
今回は少し長くなりましたので、次回その辺りについてもう少し詳しく見ていこうと思います。
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